2004年5月25日 講義

 

 

第12講 家族

 

1.家族とは何か

● 現代は家族の危機 ── ヘーゲルの家族は、解決の手がかりを与えてくれる

● 家族とは

 ・家族愛という共同体の精神によって結ばれた倫理的共同体

 ・個人は家族としての一体性をもつことによって、家族の成員となる(§158)
 
● 愛とは、「私と他者とが一体であるという意識」(同 追加)

 ・愛は矛盾 ──「私が他の人格において私を獲得し、他の人格において重んぜ
  られる」(同)

 ・愛は矛盾の惹起であると同時に解消(同)

● 家族は、基礎的な社会共同体としての実体

 ・個々人の受けとる権利は、家族の一体性における彼の生活そのもの(§159)

 ・家族にたいする法的権利は、成員が家族から分離するときはじめて顕在化す
  る

● 家族の三つの面(§160)

 1)家族の直接的概念 ── 婚姻

 2)家族の精神の外面化 ── 所有と財

 3)子供の教育と家族の解体

 

2.婚姻

① 婚姻の二つの契機

●「婚姻は、直接的な倫理的関係」(§161)

 a. 自然的生命活動 ── 性的関係

 b. 精神的一体性 ── 愛

●婚姻に対する誤った考え

 a.婚姻は性的関係

 b.婚姻は契約

 c.婚姻は愛


② 倫理的一体性

●「出発点は、両人格の自由な合意」(§162)

 ・「個人的な人格性を放棄して一人格をなそうとすることの同意」(同)

 ・この一体性のなかで、個人は解放される

 ・「倫理的義務は、婚姻状態に入ること」(同)

● 婚姻の倫理的性格は、「この一体性の意識にある」(§163)

 ・「愛、信頼、個人的生活全体の共同」

 ・「精神的な絆がおのれの権利を得」る ── 自然的衝動は、従属的契機に

 ・契約結婚 ── 夫婦共有財産が形成されない分、精神的一体性ももろさをもつ


③ 婚姻の社会的承認

● 自由な同意の社会的承認

 ・儀式的な宣言

 ・社会的承認

 ・実行委員会形式は社会的承認を前提とする

● 婚姻における同一と区別

 ・婚姻によっても、両性の自然的区別はなくならない

 ・男性 ── 家長として家族を代表、学問や国、社会の任務の引き受け

 ・女性 ── 家族を守る


④  一夫一婦制

●「婚姻は本質的に一夫一婦制」(§167)

 ・ 一夫一婦制による「一身同体となった相互献身

 ・一夫一婦制は、「絶対的原理の一つ」

● 一夫一婦制という同一性のうちで、他者のうちにおのれ自身を意識する

● 婚姻は「うちとけ合った間柄の内部で結ばれてはならない」(§168)

 ・「結合すべきものは、それ以前に別個のものでなければならない」
  (同 追加)

 

3.家族の資産

● 家族は、資産(家族共有財産)のかたちにおいて、倫理的一体性をもつ
 (§169)

 ・家産は、家族という共同体の精神の外在化

● 家産は、個々人のエゴイズムを倫理的なものにかえる(§170)

 ・家産の持続性が、家族を永続化する

● 家産は家族の共有(§171)

 ・家長は家産を手に入れ、配分し、管理する

 ・「どの成員も特別な所有はもたないが、どの成員もこの共同のものにたい
  する権利はもっている」

 ・家産は、家族が解体するまで、分割しえない ── いわゆる「共有」との
  ちがい

● 新家族の形成(§172)

 ・新家族は、両家から独立

 ・家との結びつきは、自然的血縁関係、新家族は倫理愛を基礎に

 ・夫婦と子供こそ家族の本来の核(同 追加)

 

4.子供の教育と家族の解体

① 子供は婚姻の一体性の現存在(§173)

● 婚姻の精神的一体性は、家産という外面的物件だけではなく、子供としても現
 存在をうる

 ・「両親は、子供において自分たちの合一の全体を目の前にもつ」
  (同 追加)

 ・マザコン ── 母は子のなかに自分自身を見いだし、母子は、母という人格を
  母子で分け合っていると錯覚

● 両親と子供の一体性

 ・配偶者への憎しみは、子供への憎しみに ── 幼児虐待

 ・子への愛情が、配偶者への愛を取り戻す ── 子はかすがい


② 子供の教育

● 子供は家産で扶養され、教育される権利をもつ

 ・子供は、即自的に自由な人格であって、物件ではない(§175)

 ・子供の奉仕は、家族共同体の一員としての教育、協力の範囲

 ・子供の恣意の抑制も、人間のあるべき姿の獲得という教育の目的によって規
  定される

● 教育の二つの使命(§175)

 1)積極的に倫理性を身につける

 2)「自然的直接制から抜け出させて、独立性と自由な人格性へと高める」
   (同)⇒家族の一員としつつ、家族から自立するよう教育

● 子供の学習権を認めたことは画期的

 ・人間のあるべき姿は、教育をつうじて実現される

 ・子供には自由な人格を完成させる権利がある

●「概して子供は、親が子供を愛するよりは親を愛さない」(同 追加)


③ 家族の解体

● 解体の三つの要因

 a.離婚 ──「或る倫理的権威によってのみ解消」(§176)

 b.子供の自立
    ── 自然的な家族の解体であり、社会の世代交替に不可欠(§177)

  ・雇用不安と住居の問題で、青年の自立が妨げられ、パラサイトシングルに
    ── 現代日本の社会問題

 c.相続(§178)

  ・両親(男親)の死による家族の自然的解体

  ・相続とは、共同資産としての家産が家族の解体とともに解消されること

  ・相続は、無主物先占ではない

● 遺言(§179)

 ・遺言の自由 ── 家族の解体から生じる

 ・遺言には、偶然性、恣意、下心が入り込む

 ・遺言は「倫理的諸関係を毀損する誘因」(同)

● 相続人間の差別(§180)

 ・相続による家族の解体は、相続人の間に差別をもたらすことも

 ・差別は、「家族の基本関係を毀損しないように極度に制限」(同)さるべき

 ・民法900条
  ・妻と子 ── 妻二分の一、子二分の一
  ・妻と親 ── 妻三分の二、親三分の一
  ・妻と兄弟 ── 妻四分の三、兄弟四分の一

・家族関係を無視する遺言は、非倫理的

 

5.家族から市民社会へ

● 家族の解体は、独立した自由な人格を送り出す(§181)

 ・家族としての一体性から解放される「差別の段階」

● 特殊性の圏としての社会(同 追加)

 ・倫理は失われたようにみえる(倫理の喪失)

 ・しかし、特殊性のなかに、倫理のもつ普遍性が映現 ── 普遍性は、「究極
  の支配力を失わない」
  ⇒市民社会という共同体を支える倫理的実体の存在

 

*次回第13講は、第二章市民社会(第182節から第208節まで)。